がん治療の現場から●読売新聞西部本社版 平成19年7月23日掲載「がん治療の現場から」で採録できなかった内容をこのブログにてご紹介しています。内視鏡による乳腺手術と乳房同時再建術の第一人者
乳がんは女性のがんの中で第1位を占め、23人に1人はかかる病気といわれます。しかも患者さんの多くは、がんになったことに伴う心身の苦痛に加え、治療後の胸の傷跡、手足のはれなどの悩みを抱えます。 こうした現状に対し、女医の視点からこれまでの医療が余り省みなかった課題を見直し、数々の先端医療技術を独創的に取り入れて、「根治性と整容性」を両立させるトータルケアで患者さんのQOL(生活の質)向上をめざす福岡市南区の九州中央病院乳腺外科が、国内外から注目されています。 そこでチームをリードする北村薫・乳腺外科部長にインタビューをお願いして、先駆的な内視鏡手術をはじめ、乳房再建、放射線障害の低減、後遺症の治療など、主な取り組みを紹介していただきました。 —————————————————————————————————— [インタビュー内容の主なポイント] ・女性にとってお乳は特別な意味を持つ ・乳房を傷つけず、脇の下の12mmの穴から手術 ・アメリカからも治療法の照会 ・女性ならではの美容にも配慮。 社会復帰に向けて力を涵養するトータルケアの導入を ・画期的な放射線療法「マンモサイト」 ・リンパ浮腫センターを付設し、リンパドレナージを実施 ・リンパドレナージ講習会を定期開催、「鬨(かちどき)の会」も結成 ・患者さんを中心に置いたチーム医療を重視 ・セカンドオピニオンにも積極対応 ・トータルケアでがんを乗り切って活動的に生きる —————————————————————————————————— ●女性にとって乳房は特別な意味を持つ ——北村先生は内視鏡を用いる乳腺手術を考案したパイオニアですね。 北村 九州大学第二外科助手時代の1997年でしたから、もう10年になりますね。「手術でお乳に傷がつくのは、どうしてもいやだ」という患者さんがいらっしゃって、「では、やってみましょう」と引き受けて考案しました。 乳腺の手術は上から切るのが当たり前と考えられ、内視鏡を使ってという手術はどこにもなかった頃です。これをきっかけにこの患者さんのようなニーズが大変多いことに気づき、何をすれば乳がんの患者さんのQOL(生活の質)向上に役立つかを考えてきました。 その後、私は2003年に開設された九州中央病院の乳腺外科に招かれましたが、内視鏡を用いた乳腺手術や乳房同時再建術によって「根治性と整容性の両立」を実現してきた九州大学の乳腺グループの女性医師を迎え、同性の立場から患者さんと共に最良の治療方針を探す医療を進めています。 乳腺外科ではスタート後まもなく、女性の来院者に「もし乳腺の手術が必要になったら」というアンケート調査を実施しました。その結果、お乳に傷つけたくないという答えは圧倒的に多く、傷をつけずに済む手術が受けられるなら遠い病院や費用もこだわらないという回答も8割あったのですね。 女性の患者さんにとって、やはりお乳は特別な意味を持つ臓器です。現在の受診者の約3割は福岡県外からで、北海道や関東などからもいらっしゃいます。アンケートの回答がそのまま反映されている気がしますし、手術後のみなさんの満足度も非常に高いです。 ●乳房を傷つけず、脇の下の12mmの穴から手術 ——具体的にどんな方法で手術していますか。治療成績はいかがですか。 北村 乳房にメスを入れずに、脇の下を12mm切ったところから内視鏡を入れて行う手術です。内視鏡下腫瘍摘出術と呼んでいます。写真のように傷の大きさは5mm、12mm、2mmの例です。 もう350例以上の治療実績があり、若い女性に多い乳腺腺腫などの良性腫瘍や乳腺炎でしたら10cmくらいまでメスを入れずに摘出できます。良性の場合、乳房再建はほとんど不要で、日帰り治療が可能です。
一方、乳がんの治療も内視鏡を使い、切除範囲が広い場合は術後の整容性を考慮して、これも内視鏡下で可能な限り同時再建を行います。また初期乳がんではまずセンチネルリンパ節生検をすることによって無用のリンパ節切除を回避、術後の二期的乳房再建を行うなど、女性の精神的QOL(生活の質)に配慮したきめ細かな診療を心がけています。 要するに、私たちの医療は、乳がんなどを治すことは大前提として、術後のお乳の形もいかにきれいにしてあげるか、その両立を重視するという流れできています。 ●アメリカからも治療法の照会 ——先生のような内視鏡下の乳がん手術は普及しているのですか。 北村 まだ乳房を切開して治療する手術が大部分です。良性腫瘍でも、内視鏡を使う先生は余りいらっしゃらないですね。 最近は各地の女医さんたちがよく私の手術の見学にお見えになります。その中には内視鏡手術を始める方もいらっしゃるとは思いますが。 中には内視鏡を導入していながら、乳輪を切ってそこから内視鏡を入れる先生もいらっしゃいます。乳輪を切開するなら、何も内視鏡を使わなくても済むと思います。例えば乳輪の近くに病巣があって、どうしても切開しなければ根治性に問題がある場合、私も内視鏡を使わずに手術しています。 先日はアメリカからも内視鏡下手術のビデオを送って欲しいという依頼がありました。 ——アメリは内視鏡下手術の先進国ではないのですか。 北村 乳腺については内視鏡下手術はあまり行われていませんね。日本の方が進化していると思います。 2001年に私はアメリカの第10回国際内視鏡外科学会で最優秀賞をいただきました。がんを治療したら終わりでなく、傷跡も残さないという考え方が新鮮だったのでしょうね。
●乳房の温存率90%を達成、再建法にも独自方式を導入 ——いま乳房の温存はどこまで進んでいるのですか。 北村 日本の温存率は60%前後です。ただ施設によって、かなり高いところから0%近いところまで幅があります。私たちは06年で90%までいっています。 もともと、九州中央病院の乳腺外科を訪ねて来られる患者さんは温存を期待している方々です。私のところでも切開するしか方法がないということになれば、「じゃ、仕方がないね」ということになるところがあります。ただその場合も、可能な限り再建術のオプションを提供して、患者さんのストレスを軽くしてあげています。 乳房温存術には、一つは体の別の部位からとった筋肉を移植する方法があります。しかし、患者さんに新たな傷をつけることになりますので、いまのところ人工乳房の補強術に使う生理食塩水バッグを第一選択肢にして、手術と同時再建するようにしています。これも内視鏡下で行います。
これは脂肪細胞の中の幹細胞(ステムセル)を濃縮してがんを摘出した後に入れ、脂肪組織を活性化させる方法で、一種の再生医療といえます。幹細胞の私が客員教授をしているカリフォルニア大学サンディエゴ校で講演した折に、ベンチャーから「乳房再建にそれほどこだわるなら、うちの幹細胞の濃縮装置でやってみませんか」と提案があり、昨年5月に始めました。 再生医療は心筋梗塞の治療などでは始まっていますが、がん治療後の乳房再建に適用したのは、多分、私が世界で初めてです。 ともかく乳がん手術後の再建法は非常に限られていましたので、救済策のオプションを一つ増やせたことになります。 乳がんの治療は、ご本人が手術をしたことを忘れてしまうくらいの治療ができれば理想的です。私たちがいろいろな手立てを考え、理想にどれくらい近づけられるかですね。 ●女性にも欠かせない、美容にも配慮したトータルケアの導入を ——抗がん剤による副作用、脱毛については?
北村 最近は術前や術後に化学療法(抗がん剤治療)を行うことが多くなりましたが、ほとんどの抗がん剤で生じる脱毛には、ウィッグが必需品となります。これも女性のQOL(生活の質)の維持には欠かせないものですので、複数のカタログを外来に常備して、看護師が随時相談に乗るようにしています。
外来にも数社のリーフレットを置いていますので、看護師に相談してみてください。 ●画期的な放射線療法「マンモサイト」 ——抗がん剤療法や放射線療法についてはどんな取り組みをしていますか。 北村 薬物療法に関しては、ほかのがんと共通しますが、エビデンス(科学的根拠)に基づいた標準治療が決まっています。従ってそれに準じた治療をしています。 一方、放射線治療では今年1月からマンモサイトを導入しました。 マンモサイトとは乳がんの再発防止のために開発された、乳腺だけに放射線を局所照射できる専用のバルーンで、中に小さな放射性物質が入っています。私はこれを手術の時と同じように内視鏡を使って脇の下から入れ、いちばん再発しやすいところに留置して膨らませるというやり方をしています。 現在行われている乳がんの放射線療法は外から乳房全照射をしますので、乳房が日焼けしたように黒くなります。これに対してマンモサイトは内側から必要な部分にだけ照射しますので、乳房はほんのり赤くなる程度です。 もう一つは治療時間を大幅短縮できるメリットがあります。 現在の放射線治療は普通、手術後に5、6週間の通院が必要です。もしその前に抗がん剤治療が必要になったりすると、それが終わる半年も後から5、6週間通うことになります。これでは社会復帰が大幅に遅れてしまいます。 この点、マンモサイトは5日間朝夕2回、計10回照射すれば済みます。手術後の早い時期に入れておけば、もし抗がん剤治療が必要となっても、その前に済ませてしまうことができます。乳腺腫瘍の治療の中で放射線療法はいちばん進化が遅れてきた分野ですが、侵襲が軽くなるし社会復帰も早い、患者さんのQOL(生活の質)向上に役立つ画期的な治療法です。 マンモサイトはアメリカでは相当普及し、FDA(米国食品医薬品局)の認可を得ています。アメリカの学会に参加した時に出会い、2年間構想を練って導入したものです。日本ではまだ九州中央病院でしかできません。 ただ課題としては、日本の女性はアメリカの女性より乳房の皮下脂肪が薄いという違いがあります。皮下脂肪が7mm以下ですと肌まで放射線の影響を受けますので、使用できる患者さんが限られます。また、アメリカのように乳房を切開して入れれば比較的容易にできますが、乳房を傷つけない方法にこだわればそれだけ技術的にむずかしくなります。 そこで企業と共同研究して日本の患者さんに合うバルーンの開発ができないか、専門のドクターと相談しているところです。それが実現したらもっと広く利用していただけると考えています。 ●リンパ浮腫センターを付設し、定期講習会でセルフケアのおさらいを ——九州中央病院のリンパ浮腫センターの役割は? 北村 リンパ浮腫はこれまで余り省みられませんでしたが、がんの手術の際にリンパ節まで切除した患者さんの約半数に後遺症の腕や脚のはれが起きます。乳がん以外の婦人科系のがんの手術後にもみられ、乳がんの場合は腕のはれ、子宮がんなどでは脚のはれになって表れ、患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させます。
九州中央病院では、乳房の温存術などを実施しても手術後にリンパ浮腫で悩まされてはトータルケアにならないと考え、乳腺外科の付属施設として、国内の総合病院では初めて、リンパトレナーゼを取り入れた複合的理学療法を行える外来のリンパ浮腫センターを開設しました。 リンパトレナーゼは深層リンパ流の流れを促進するため専門的なマッサージやバンデージ療法、運動療法を行い、リンパ浮腫を予防改善する療法です。 これまでの実績では、月2回以上通院できた方は3か月目に平均2cm、6か月の方は平均3cm縮小し、順調な成績を上げています。
センターを開設して、改めてこの治療の需要が多いことが分かりました。ほかにリンパ浮腫を治療できる施設が少ないこともあって、他の病院で手術した方を含む大勢の患者さんがお見えになり、技師を2人に増強、さらに専門のナース養成に努めているところです。 日本乳癌学会も昨年から班研究のテーマに取り上げ実態調査に乗りだしました。子宮がんなど婦人科系の手術によって起きているリンパ浮腫に関しては外科医の先生方にお願いしてまわり、今年9月にリンパ浮腫研究会を立ち上げることになりました。 リンパ節を取るのは、いってみれば私たち外科医の加害行為ですから、やはり治療と予防も外科医で取り組もうという考え方です。
●「鬨(かちどき)の会」を結成 ——啓発のための講習会も開いていますね。 北村 リンパ浮腫の知識とセルフケアのための講習会を年間3回開いています。次回9月22日の講習会で16回目になります。毎回50人から60人の参加者があり、ナースや、ほかの病院で手術を受けた患者さんも結構いらっしゃいます。患者さんには必ずご主人やお嬢さんなど、家族連れで来ていただくようお願いしています。
一方、リンパドレナージの推進組織として、患者さんだけでなく医師、ナースも参加する「鬨の会」を結成しています。 本来は、乳がんや子宮がんの手術で起きるリンパ浮腫の予防と治療に欠かせない医療用サポーター(弾性着衣)に保険適用を求める市民の会です。しかしリンパ浮腫という言葉を知らない患者さんや先生方もいらっしゃるので、まず啓発・普及活動に力を入れています。事務局は九州中央病院のリンパ浮腫センターにあります。 発足以来約2年半経ち、全国で次第に支部が立ち上がり、会員は北海道から沖縄まで600人を超えました。いただいた署名は約1万5000人に達しています。厚生労働省も、少し耳を傾けていただくようになってきました。 ※詳しくは、リンパ浮腫治療の保険適応化を実現する 鬨(かちどき)の会(代表・北村 薫)にアクセスください。
●患者さんを中心に置いたチーム医療を重視 ——九州中央病院はチーム医療も看板にしているようですが。 北村 大きな病院では医師が外来の患者さんの診療や入院患者さんの回診に充てる時間が限られています。そこで医師と患者さんの周りにいるナースや薬剤師、理学療法士などいわゆるコ・メディカルが、医師一人だけではできない部分をみんなでカバーするようにしています。 例えば、診察室を出てきた患者さんにまだ理解不十分なことがあれば「わかった」と納得していただけるまでナースが説明する、薬剤師はベッドで患者さんに詳しい薬の説明をするといった、患者さんがいつどちらを向いても必要なサポートを受けられる体制をとっています。 つまり、コ・メディカルが患者さんと医師を遠巻きに見るのではなく、医師と連携しながら全員参加で患者さんをサポートするケアです。最近よくチーム医療がいわれますが、まだ言葉だけが独り歩きしている感じもします。 ●セカンドオピニオンにも積極対応 ——近年、セカンドオピニオンについて関心が高まっています。 北村 私は、セカンドオピニオンは乳腺治療から始まったと思っているくらいです。「あっちではお乳を取られる、こっちでは残る」では、大変な違いですからね。
しかも乳腺腫瘍は消化器などの病気とは少し違い、よほど緊急を要する悪性でなけければ、ひと月くらいはどこでどんな治療を受けよかと、「迷う時間」が許されます。 九州中央病院では受診される方々の納得と満足をいただける医療を提供するという基本方針に基づき、院長以下、毎週、予約制で無料相談に応じています。
●トータルケアでがんを乗り切って活動的に ——乳腺外科開設以来4年余り、受診者の反響はいかがですか。 北村 トータルケアでがんの治療を受けた女性は、本当にきれいになって耀いて見えます。一度経験したがんを乗り切った自信で、これから人生を出直そうという強い気持ちがわくのでしょうね。みなさん、とても表情が明るく、活動も活発です。 ——ご多忙の中、長時間のお話ありがとうございました。 ———————————————————————————————— ◆北村 薫氏 プロフィール 公共学校共済組合 九州中央病院 医務局長・乳腺外科部長・リンパ浮腫センター長 University of California, San Diego 客員教授 ———————————————————————————————— ●医療用ウィッグメーカーの一例へアクセスください。 ————————————————————————————————
2007/07/23(:) カテゴリ:なし コメント(16) | トラックバック(0)
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この記事に対するコメント
折角育ったオッパイにきずがつくのはイヤですね。経験があるお医者さんを選ばなくちゃダメなのがわかりました。
乳がんで死ぬことってあるんでしょうか?
30%くらいの方がお亡くなりになってるんではないでしょうか?
こんなにトータルでケアしてくれる病院があるんですね。
おばあちゃんが15年前に乳がんになりました。いま80歳を越えてますけど元気期ィ!!
一つ年上の取引先の担当者がガンで死にました。お見舞いに行こうと思ったけど、止められました。
「末期なのに本人は仕事に復帰するつもりで、いたたまれなくなるから止めとけ」ってことです。治るガン、治らないガン。生きるって結構大変ですよね。
九州中央病院は、病院への不満を患者が張り出す掲示板が待合室にあります。他には無い素晴らしい病院だと思います。院長先生のお人柄だとお聞きしています。
乳がんになる人は、多いんですね。

乳がんは、食生活の欧米化が一因だとテレビで見ました。
高脂肪の食べ物は避けて、乳がん予防をしようと思いました。
でも、チーズはやめられんです。
私は20代後半ですが、乳がんやがんは、中高年の人がなる病気だと最近まで思っていました。

だけど、そうではないみたいですね。
もし乳がんだったら早期発見して治療してもらえるように、乳がん検診に行こうと思います。
同じ病気でも、行く病院によって治療方法が全く違う場合があるんですね。

私もがんになったら、セカンドオピニオンを聞いて、自分でもその病気について勉強しないといけないと思いました。
乳がんにならない予防方法とかあるんですか?
胸を切り取られてしまうなんて、絶対ガマン出来ません。20何人に一人に自分が当たらないように祈ります。
後遺症のむくみがこんなにひどいなんて知りませんでした。手術しっぱなしじゃ無くて、こんなにアフターフォローしてくれる病院が九州にあるのは嬉しいです。
ここの院長先生は杉町先生といわれる方で、人間的にも素晴らしい人格者だと思います。←NHKの特集で見た情報です。
痛そうな写真ですね・・・
乳癌の手術をしてもうすぐ2年になります。セリューションについて調べていました。大阪の聖心クリニックでは美容目的でのセリューション豊胸を行っていらっしゃいます。でも、私は美容目的ではなく再建医療としてのセリューションをしてくださる医療機関を探しています。京都に住んでいますが九州中央大学以外でもセリューションが再建医療として早く行われる事を願います。女性の中で最も多い乳癌 悩んでいる方はたくさんいらっしゃるのですから。
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